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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

「湯川からプロポーズされましたか?」
「……水森さんにお話しすることではありませんよね、それ」
「あぁ、確かに。友人として気になったもので」
「湯川先生には、あの裸婦像は私の曾祖母くらいの先祖だと伝えてあります。余計なことは言わないでくださいね」
「あ、はい、わかりました」
「話が終わりなら、私はこれで――」

 テーブルの上に一枚のポストカードが置かれる。村上叡心展のポスターの、見返りの裸婦像だ。

「差し上げます」
「ありがとうございます」

 箱根の美術館でも、叡心先生のポストカードを買ったのだった。これは、少し嬉しい。少し。

「村上叡心の絵は、将来的には、どこかの美術館に寄贈するかもしれません」
「……え?」
「水森家で保管するにも、限度がありますし……彼の絵は非常に価値が高いと思いますので、大勢の方に見てもらったほうが良いのではないかと、家族で話し合っている最中です」
「そう、ですか」

 それならそれで、気軽に観に行くことができるので、私にとっては朗報だ。

「あなたが、この時代に僕の前に現れてくれて、本当に良かった。本当に」

 水森さんの言葉に嘘はない。先ほどの尋問のような口調ではなく、優しい感じだ。

「水森貴一の日記を読んだあと、あなたに会えたら、言わなければならないと思っていた言葉があります」
「はあ……」
「申し訳ありませんでした」

 水森さんは、立ち上がってその場で頭を下げた。
 そんな、いきなり、謝られても。

「水森貴一のしたことは、非常に低俗で、欲にまみれた行為だったことでしょう。そのせいで、あなたと村上叡心の仲を引き裂いて……あなたから彼を奪った。僕が今謝ったところで、何の意味もないことはわかっていますし、許してはもらえないでしょうが、やはり、子孫として、あなたに謝りたい」

 そして、再度、深々と頭を下げる。

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