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サキュバスちゃんの純情《長編》
第1章 情事と事情

「今セックスフレンドは何人ですか?」
「四人、です」
「不倫は?」
「したことありません」
「行為後に罪悪感を覚えたことは?」
「さぁ、ありませんけど」

 何だか尋問されているかのようだ。診察が始まっているならば、早めに言っておかないと。

「水森さん、私、湯川先生の結婚相手ではありません。診察を受ける予定もありません」
「まぁ、そうでしょうね」
「……え?」

 パイナップルジュースを一口飲んで、水森さんは東京タワーを見る。

「湯川はあなたにご執心ですが、あなたはそうではない。四人の中に湯川が含まれるのでしょう?」
「ええ、まあ」
「セックスをストレスの捌け口としているわけでもなく、節度も保っている。罪悪感もない。病気ではなくて、あなたの性質だと思います」

 ええ、おっしゃる通りです。ただの性質です。種族的な性質です。
 声のトーンは抑えてはいるけれど、初対面の人にこんなに「セックス」を連呼されたのは初めてだ。少し恥ずかしい。周りの人に聞こえてはいないようだけど、私にだって恥じらいはあるのだ。

「例えば、今から僕があなたをベッドに誘ったとしても、あなたはそれを受け入れ、行為後にも何の感情も持たないでしょう?」
「好みはありますけど、誘われたら基本的には断りませんね。既婚者は後が面倒なので断りますが。感情、も、持たないでしょうね」

 湯川先生からは「水森とセックスしないでくれ」と言われたけれど、今は食事は週に一度だけだと自制しているだけであって、常に食欲はある。
 ケーキを食べても満腹にはならない。甘いもので幸せな気持ちは満たされるが、食欲は満たされない。

「月野さん。あなたは残酷な人だ。今、僕はちょっとだけ湯川に同情しましたよ」

 残酷な人、か。よく言われる言葉だ。もう慣れたけど。
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