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サキュバスちゃんの純情《長編》
第1章 情事と事情

 生クリームたっぷりのフルーツロールケーキを口に運んで、頷く。美味しい。

「あなたにとって、セックスは性欲処理ではないのでは?」
「……と言いますと?」

 なんだ、この人。
 ただ知的好奇心を満たしたいだけなのだろうが、私をどこまで知りたいのだろう。どこまで私に関わるのだろう。
 興味本位で痛い腹を探られるのは、迷惑だ。
 私は穏やかに暮らしたいだけなのだから。

「あなたにとってセックスは、例えば、食欲や睡眠欲のようなものでは? なくてはならない、必要不可欠なものなのではありませんか?」

 水森さんの眼鏡の奥の目がギラリと光ったような、気がした。
 ふぅとため息をついて、フォークを皿に置いて、水森さんを睨みつける。ちょっと腹が立ってきた。
 私の人生に深く関わらないのであれば、余計な詮索はしないで欲しい。

「……それを知って、どうするんです? 研究したいなんて言わないですよね?」
「そういう気持ちがない、とは言い切れません。医者は学者でもありますから、好奇心は満たしたい。でも」

 ……でも?

「サキュバスはさすがに専門外なので」

 ドクリと心臓が跳ねる。

「肉体的な性質には興味ありませんが、その生態には興味があります」

 どういう思考でその結論にたどり着くのか、本当にわけがわからない。私がずっと隠してきたことを、ものの一時間で理解してしまうような人、今まで出会ったことがない。
 なに、この人。何なの?

「僕の好奇心を満たしてくれませんか」

 あと少しケーキを食べたかったけれど、無理だ。帰ろう。腹が立って仕方がない。
 湯川先生のバカ!
 水森のアホ!

「お断りしますっ!」

 私は、観察対象でも実験動物でもないの!
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