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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花
ブルーシートに座ったまま、あたりを見回すと、美山さんは既にビール片手に顔が真っ赤になっているし、課長や部長はそれぞれ同い年くらいの社員と談笑している。見たことがあるうちの社員も何人かいて、皆楽しそうだ。
……やっぱり、佐々木先輩と来たかったなぁ。
今さら、そんな心細い気分になる。
打ち上げまで、何しようかなぁとスマートフォンを取り出したとき。
「ダーメだって! スマホなんか出しちゃあ!」
いきなり、私の赤いスマートフォンが誰かに奪われた。見上げると、真っ赤な顔をした――誰? 見知らぬ男性だ。年齢は湯川先生と同じくらい。
「花火撮るならまだしも、待ち時間にスマホ出すなら、俺とお話ししようよぉ!」
「えっ? あの、スマホ返してくだ」
「わぁ! 美人さんじゃん! 浴衣かっわいいーね!」
「あ、あの、スマ」
「カレシいるのー? 俺と付き合わなーい?」
酔っ払いだ! 完全に出来上がった酔っ払いだ! 酒癖が悪い人だ!
スマートフォンを取り返すために立ち上がり、手を伸ばす。けれど、背の高い男性がさらにスマートフォンを掲げるので、届かない。
はるか頭上で、シャラシャラと金色の三日月が揺れる。
「返して、くださっ」
「へへへー! やだねー! 付き合ってくれるなら返すけどー」
ガキか!
下駄でスネに蹴りを入れたくなる気持ちを抑えて、我慢して、「返して」と懇願する。さすがに取引先の社員に怪我をさせるわけにはいかないのだ。