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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花

「福岡にいたことはありますか?」
「い、え、ありませんけど……?」

 嘘だ。東京に出てくる前は福岡にいた。そのときの名前は「月野あかり」ではなかったけど。

「じゃあ、他人の空似ですね。あなたによく似た人を福岡で……知っていたので」
「よくある顔ですよ。よく言われます」

 ……思い出した。
 彼がまだ大学生のときに、セフレをしてもらっていたんだった。遠方に就職をして疎遠になったけど、まさか、こんなところにいたなんて。

「あ、俺、妹尾(せのお)です。イトイの営業五課です」
「月野、です。サキタの営業部に派遣されています。はじめまして」

 妹尾大輔。社員証を見て確認する。懐かしい名前だ。少し、太ったのかな。精悍な顔つきになった。どれくらい、年月が経ったのだろう。彼は、いくつになった?

「月野さん……ご一緒してもいいですか?」
「え、あ、はい、どうぞ」

 ブルーシートの右隣に、昔のセフレ。彼の左手薬指には、銀色のリング。そうか、結婚したのかぁ。それは、おめでたい。

「先ほどは先輩が失礼なことをして、本当に申し訳ありませんでした」
「いえ、大丈夫です」

 酔っ払いに絡まれセクハラ発言をされる程度ならまだマシだ。慣れている。
 冷めたポテトとフランクフルトを食べ、少し温くなったジュースを飲む。
 他にも、カレーやうどん、フライ系やおつまみ系の食べ物、かき氷などのケータリングがあるみたいだ。各会社の総務部の社員たちとアルバイトの子たちが、器によそったり、足りなくなったものを補充したりして、右往左往している。

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