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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花

「月野さんは、サキタで何年目ですか?」
「まだ半年ちょっとです」
「今年は彼氏と見なくていいんですか?」

 露骨な聞き方じゃないあたり、慣れている感じがする。さすが、上場企業の、口の巧い営業部。
 待っているのは「彼氏いないんです」の一言だ。

 妹尾さんは、昔から、結構ガツガツ来るタイプの人だった。営業部なら、いい成績を残せるだろう。それは納得できる。
 でも、彼が元セフレだとしても、指輪をしている人とどうこうなるつもりは、ない。どれだけ精液が不足していても。

「来週行く予定です」
「江戸川?」
「板橋のほうに」
「へぇ。彼氏、いるんですね」

 いますよ、と笑う。
 こういう人には恋人の存在をちらつかせても、無駄だとは知っているけど。一応、牽制にはなるだろう。
 不倫のお誘いなんて、御免だ。

「……ところで、ミヤちゃん」
「はい」

 口を塞いだが、もう遅い。
 ミヤちゃん――美也子。私の、少し前の名前。東京に出てくる前に使っていた、妹尾さんが知っている、私の昔の名前。

「すみません、反射的に応えてしまいましたけど、私、そんな名前じゃ」
「ここにいたんだね、ミヤちゃん」
「ですから、私――」

 ドン、と体に響く重低音。間近で聞こえたその音に、皆歓声をあげて、夜空を見上げる。

 重ねられた唇は、ビールの味。
 太腿に置かれた左手が、指が、既婚者の証が――誘う。

 泥の、沼へ。

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