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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花
「来ないでくださいっ!」
「いいじゃん。久しぶりだから、楽しもうよ、ミヤちゃん」
「だから、私はっ、そんな名前じゃっ」
「ミヤちゃん。ねぇ、楽しもうよ」
巾着を引っ掴んで、階段を駆け下りる。その途中で、妹尾さんは笑いながら追いかけてきた。
不慣れな社内と居場所を知らせてしまううるさい下駄に恐怖しながら、ようやく女子トイレに籠もることができたのに。
「ミーヤちゃん」
女子トイレの出入り口に、妹尾さんがいる。このままだと、出られない。酔っ払いのセクハラ男より、昔の女に似た女を追い掛け回して関係を迫る男のほうが、手に負えない。
最悪だ。
「ミヤちゃん、わさびとか生姜、苦手だったよねぇ」
「……」
「そのくせ、明太子は好きだったよね」
「……」
抑揚のない声。怖い。機械が喋っているみたい。
妹尾さんは、こんな喋り方だった?
「なんで名前が変わったのか知らないけど……あ、結婚でもした? 月野美也子?」
「月野あかり、です! 美也子さんて名前じゃありません!」
「どうでもいいよ、そんなの」
バン、と板か何かが蹴られたような、殴られたような音が響く。蝶番が揺れる音もしたから、たぶん、トイレのドアを殴るか蹴るかしたのだ。
「早く出てこいよ、美也子。ヤラせろよ。溜まってんだよ、こっちは」
暴力的な言葉に、ゾッとする。
怖い、怖い、怖い――。