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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花
「人事部の白鳥です」
「同じく、麻生です。何かありましたら、私たちまで連絡ください」
「は、はぁ……」
わけがわからないけど、とりあえず、助かったということだ。
ホッとしたら、腰が抜けた。慌てて、近くにいた白鳥さんが支えてくれる。
「サキタの月野さんですよね? 荒木さんが心配なさっていましたよ」
「荒木、さんが?」
「はい。でも、とりあえず今日はこのまま帰りましょう。妹尾と一緒にいたくはないでしょう。会費は後日お返しいたしますから」
荒木さんに助けられたのか、私。
もしかして、妹尾さんにキスされたところも、見られていた?
それは、最悪だ。最悪だ。
「大丈夫ですか? 一人で帰れますか? 荒木さん呼んできましょうか?」
「あ、いえ、大丈夫です。帰れます。ご迷惑をおかけして」
「それは私たちのセリフです。うちの社員がご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ありませんでした」
二人に頭を下げられ、恐縮してしまう。まぁ、でも、良かった……何もなくて。本当に良かった。
「妹尾さんはどうなりますか?」
一階へのエレベーターを待ちながら、一階まで送ってくれると言う白鳥さんに尋ねる。
「未遂とはいえ、女性をトイレに閉じ込めて『ヤラせろよ』はアウトなので、一度子会社に出向してもらって、その後解雇でしょうか。子会社で成果を出しても、こういう問題で左遷された人は本社には戻さないので、東京には来られないようにしますよ」
「はぁ……スゴい、ですね」
「あぁ、気に病まないでください。妹尾のセクハラ問題はかなり前からあったのですが、証拠がなくて。今回の件でようやく追求できそうなので、頑張ります。月野さんには囮の真似事みたいなことをさせてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
「あ、それは大丈夫、です」
私とそう変わらない年齢に見えるのに、しっかりしている人だ。こういう人が集まる会社なんだろう。さすが日本一の玩具会社だ。
一階の、玩具がディスプレイされたエントランスホールを抜け、白鳥さんに礼を言ってから、人混みの中へと紛れていく。