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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花

 あれから一時間くらいたっただろうか。人混みをかき分け、何本か電車を見送って、都内で何箇所か花火大会が行われている現実に直面する。
 佐々木先輩の言う通り、家でじっとしていたほうが良かったのかもしれない。

 エントランスはコンシェルジュを頼らず翔吾くんに何とか開けてもらい、誘拐ではないと知ってホッとする。玄関のドアも開けてもらって、倒れ込んできた人影を何とか支える。

「翔吾くん? 翔吾くん!?」
「んー……」

 酷い臭いだ。お酒と、吐瀉物の臭い。どうやらかなり酔っ払って、かなり吐いたみたいだ。シャツにもついている。
 ……これは、酷い。

 メッセージを受け取ってからかなりの時間がたっているので、胃の中身はもうほとんど残っていないだろう。吐くものはない、はず。
 翔吾くんがこんなになるまで飲むことはない。何があったのだろう。
 健吾くんはどこだ? 喧嘩でもしたのだろうか。

「翔吾くん、立てる? 大丈夫? 服脱げる?」
「……むり」
「じゃあ、私が脱がしていい? 汚れてるから着替えないと」

 もたれかかってくる翔吾くんを起こそうとして、手首を掴まれる。熱い。熱でもあるの? いや、額に手を当てても熱はない。ただ、手が熱いだけだ。

「翔吾くん、お水飲む?」
「……い、ら、ない」
「おかゆか雑炊作ろうか?」
「……いい」
「翔吾くん?」

 手首をぐいと引き寄せられて、翔吾くんの腕の中。荒い吐息が首筋にかかる。

「……そばにいて」
「いるよ」
「どこにも、行くな」
「うん」

 へたり込んだ翔吾くんの足の間で膝立ちになり、髪を撫でる。あれ? 髪の毛伸びた? 香水もつけていない? あれ?

 ぎゅうと強く抱きしめられる。彼の口から苦しげな言葉が零れる。

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