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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花

「あの男が、テレビに……あの男が」
「あの、男?」
「あいつ、俺の……っ!」

 彼の首筋に目を落とす。日焼けしていない、白い肌。……白い、肌。
 そうだ。彼も「さくらい」だ。

「俺の、命の恩人を殴っ……!」
「……殴られている女の人を、見たんだね」
「殴って、馬乗りに、なって……嫌がるあの人を……っ!」

 あぁ、そうか。
 見られていたのか。

 ――十歳かそこらだった、彼に。

「大丈夫。大丈夫だから」
「なん、っ、あいつがっ、都知事選にっ」

 藍川道弘は、長野で当時、県議をしていた。十年前に私のセフレだったその男は、セックスのたびに暴力を振るう人だった。そういうプレイが好きな人だった。
 首を絞められたり、ナイフを突き付けられたりする毎日に耐えきれなくなって、藍川から逃げるために、福岡へ行った。
 そこで、妹尾さんを始めとするセフレたちに出会った。
 それも、もう八年も前の話だ。

 藍川が都知事選に立候補したことで、テレビでの露出が増え、彼のトラウマが蘇ったのだろう。
 飲まずにはいられない、平静ではいられない――その気持ちは、よくわかる。

「大丈夫だから、健吾くん」

 健吾くんの震える背中を撫でながら、言い聞かせる。
 大丈夫。私はここにいる。
 あなたのそばにいてあげるから。

「大丈夫」

 だから、泣き止んで。
 私のために、泣かなくていいんだよ。

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