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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花

 十年前、私は長野の藍川の別荘の近くで、川で溺れた男の子を助けた。それが、健吾くんだった。
 叡心先生には届かなかった手が、今回は届いた――そのときは、それが誇らしかった。

 人命救助をして戻ってきた私の晴れやかな顔を見て、藍川は平手打ちをした。俺をスキャンダルに巻き込む気か、と。
 藍川は結婚はしていなかったけど、クリーンなイメージで通っていたから、結婚もしない恋人が人命救助をした、というニュースは彼にとってプラスではなかったのだろう。
 私はその場にいた誰にも名乗ることなく、藍川の別荘に連れて行かれた。

 別荘に帰ったあとは、殴られながら彼を受け入れるしかなかった。逃げようとすれば引きずり倒され、さらに暴行を加えられる。ぐったりとした私に馬乗りになって、藍川は乱暴に私に押し入り、独りよがりな射精をした。
 逃げたら殺される――本能的にそう思った。大人しく従うしかなかった。

 部屋でもベランダでも、暴力を受けながら、セックスを強要される――その姿を、幼い健吾くんは見てしまったのだ。

「怖い……俺も、あの男と同じことを、してしまいそうで」
「大丈夫。健吾くんはそんなことしない」
「でも、怖い……」
「大丈夫。大丈夫だよ」

 玄関で、健吾くんと抱き合いながら、ゆっくり彼のトラウマを吐き出させる。
 それしかできないのが、歯がゆい。

 こういうとき、精神科医ならなんて応えるのだろう。なんて助言するのだろう。水森さんに聞いておけばよかった。

「女の人が怖い?」
「怖い」
「私も?」

 健吾くんは頷く。

「あんたが一番、怖い」

 まぁ、トラウマの根源だし、それは仕方ない、かぁ。顔を整形するつもりはないので、兄のセフレとして耐えてもらうしか。

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