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サキュバスちゃんの純情《長編》
第6章 花火と火花
月曜日、出社した私を待ち構えていたのは、荒木さんでも、佐々木先輩でもなくて、総務部の日向さんだった。
「月野さん!」
花火大会でのことだろうと予想はついたので、あまり話したくはないけど覚悟を決めて彼女の前に立つ。日向さんは人の少ない非常階段まで私を誘導する。
妹尾さんとはどういう関係なのか、そういうゴシップ的なことを面白おかしく聞かれるのだろうと思っていた。
けれど――。
「月野さん、ごめんなさい!」
緩く巻いた髪の毛が揺れて視界から消えた。見ると、深々と頭を下げる日向さんの姿が目に入る。
「イトイの営業部の人には注意するように、もっとしっかり私が伝えておけばよかったのに、本当にごめんなさい! 荒木くんが伝えたって言葉を鵜呑みにしなければ、月野さんに怖い思いをさせずにすんだのに、本当に申し訳なくて」
「えっ、あの、大丈夫でした、ので……」
思わぬ謝罪に、戸惑ってしまう。妹尾さんのことを根掘り葉掘り聞かれるものだと思い込んでいたから、拍子抜けしてしまう。
「イトイの人事部の人から聞いて、もう、本当にビックリして……最悪の花火大会にしてしまって、ごめんなさい」
「だ、大丈夫、ですよ」
「本当に? しんどかったら、私に教えてね。病院にかかるなら、それも慰謝料に含めましょ。あ、病院には行った? 先方から質問があったときにはまた話を聞くと思うけど、それでもいい? 大丈夫?」
「あ、はい、それは大丈夫です。病院には行っていません」
ホッと胸を撫で下ろすような仕草のあと、日向さんは、ようやく笑顔になった。
そう、最初から、彼女は笑ってなどいなかった。心配そうな顔だけだった。