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サキュバスちゃんの純情《長編》
第7章 傷にキス

「月野さん、二十代と三十代は違うわよ、印象が。だから、彼が三十路になったら、考えてみようかなって」
「じゃあ、彼氏さんが三十歳になったらすぐ結婚ですね!」
「んー……息子が『お父さん』って言うのを待つのもいいかもしれないわね」
「それ、いつになるんですか!?」
「いつになるかしらねぇ」

 久々に、仕事以外の話で佐々木先輩と盛り上がることができた。それは嬉しいし、内容も幸せなことだけど、少し……寂しい。
 先輩は、結婚したら派遣社員を辞めるのだろうか。一緒に仕事ができなくなるのだろうか。
 それを考えると、とても、つらい。

 何回も、何十回も、何百回も、別れはあった。そのたびに、苦しく、つらく、寂しくなる。そのたびに、私と人間は違うのだと痛感する。

 今のセフレさんたちとも、いつか別れが来る。宮野さんみたいに。叡心先生みたいに。
 みんな、いつか、私を置いていってしまう。私から離れていってしまう。

 仕方がないと諦めてしまうのは簡単なこと。
 最初から諦めてしまうのは、もっと簡単なこと。
 私、簡単なことしかしてこなかった。それが一番楽だったから。一番、つらくなかったから。

「佐々木先輩」
「うん?」
「結婚式するなら、呼んでくださいね。何年たってからでもいいので。私、絶対お祝いしたいです」
「ありがと。式、するようだったら、ね」

 立ち向かう先輩の姿がカッコいい。
 逃げてばかりの私は、きっとカッコ悪い。

 でも、きっと、生き方は変えられない。
 この刹那の出会いを大切にしていくしか、ない。それしか、できないのだから。

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