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サキュバスちゃんの純情《長編》
第7章 傷にキス
「ご両親がいない家に送り届けるのは大変だとは思いますが、あの、くれぐれも……」
「大丈夫です。ご心配くださってありがとうございます」
書類を書き終えて、ケントくんのほうへと向かう。ケントくんは二ヘラと笑って私に抱きついてこようとする。
どれだけ飲んだのか、かなり酒臭い。未成年だと言うのに、まったく、もう。
「ケントくん、帰るよ!」
「はーい! あかりちゃんごめんねー!」
「皆様、ご迷惑をおかけいたしました!」
「おかけしましたー!」
苦笑する警察官たちと小畑さんに見送られて、新代署をあとにする。
酔っ払い未成年を電車で送るのは至難の業だ。その最中に、私が他の署の人に淫行条例違反で捕まってしまうかもしれない。何が起きるかわからない。
仕方なく、署の前でタクシーをつかまえ、ケントくんに家の住所を尋ねる。
「なに、言っているの。家には帰らないよ」
「ケントくんこそ、何言っているの。帰りなさい」
「聞いたでしょ? 僕の両親はスウェーデンに帰省中で、夏の間は帰ってこない。所持金もほぼナシ。明日僕がお金を引き出すまで、あかりちゃんが面倒見てよ」
「……」
「それとも、コハちんの前でキスして、二人で仲良く警察署で過ごす?」
細められた茶色の瞳には、悪意しかない。
天使の皮をかぶった悪魔、か。
チラと署の玄関を見ると、確かに小畑さんがまだこちらを見ている。いろいろ、怪しまれているということだ。
「……明日の朝まで、だからね」
溜め息をつきながら、運転手に行き先を告げる。いつものコンビニ。
あぁ、もう、なんて週末なの――。