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サキュバスちゃんの純情《長編》
第7章 傷にキス
「今の母がスウェーデン人で、父が日本人。二人の養子になってる。そういう話は協会がやってくれるから、僕は思春期を彼らのもとで過ごして、年齢と外見の食い違いが酷くなってきたら……失踪したり、死んだことにしたり、するんだ」
なるほど。そうやって、養子になって身分を獲得するわけか。昔、私も使っていた手段だ。
スウェーデンでずっと過ごしてきたわけではないらしく、「協会」によってヨーロッパの各地で養子になっていたようで、たいていの言語は習得している、とケントくんは笑う。
日本語は昔から習っていたようで、スウェーデンでも養子になってからスクールに通っていたようだ。
そして、父親の仕事の都合で日本にやってきて、一年。
だから、日本語が上手なのか。日本だけで生活していた私とは大違い。
麦茶を飲みながら、お菓子を頬張りながら、私の大きめのTシャツを着て、「他には何を聞きたい?」と左の頬を保冷剤で冷やしているケントくんが笑う。
めちゃくちゃ真っ赤になっていたのは、本当に申し訳ないと思うけど、謝りはしない。
「本当に、妊娠しない?」
「しない。協会でも実験済みだよ。そもそも、あかりちゃん、生理ないでしょ?」
「……確かに。卵子がないと妊娠もしない、か……あ、じゃあ、ケントくんの精液は?」
「無精子症みたいな状態だね。精子は全くいない。ゼロだよ」
シャワーを浴びる前に太腿を伝っていった精液は白かったけど、あの中に精子はいないらしい。不思議なものだ。人間の精液とそう変わらないように見えたのに。
じゃあ、私たちはどうやって生まれたのか――それはケントくんも「わからない」と首を振る。協会も把握していないらしい。
ただ、人間のように赤ん坊として生まれたとしても、「性質」が現れるのは思春期を終えてから、そして、それまでの記憶はすべてなくなっているのが普通、らしい。