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サキュバスちゃんの純情《長編》
第7章 傷にキス

「じゃあ、次は僕の質問。あかりちゃんのセフレは何人?」
「今は、四人、かな」
「その中に僕を加える気は?」

 思わずケントくんを睨む。淫行条例違反とやらで警察のご厄介にはなりたくありません!
 けれど、彼は涼しげに笑うだけ。

「僕のセフレは今七人なんだけど、半分以上がスウェーデンの子なんだ。日本の子は三人。父の仕事の関係で日本に来たばかりだから、ちょっと少なくて」
「三人……は、不安だね、確かに」
「そう。だから、一人は安全な人が欲しい。安全に愛液を提供してくれる人、ね」

 気持ちはよくわかる。「この人なら絶対に大丈夫」な人は、私にとっては宮野さんだった。彼は安心安全な人だった。
「会いたい」と言えば会ってくれるし、私への執着心を微塵も見せなかった。最高のセフレだった。
 たぶん、もう彼のような人は現れない。それくらい貴重な人だった。

「あかりちゃん」

 するりとショートパンツの上から太腿を触る指。その手の甲をつねると、ケントくんが苦笑する。

「触らせてよ」
「触らないで」
「触りたいんだ。わかるでしょ? あかりちゃんに触れていたい」

 わかるでしょ?
 ……わかるよ。私だってそうだ。
 同族というものはこれほどまでに凶暴な食欲で結ばれるものなのだと、今、恐怖している。食欲ではなくて性欲かもしれないけど、とにかく、あんなことをされたのに、満腹のはずなのに、私の体は「欲しい」と訴えてくる。
 ――ケントくんの精液が欲しい。

「僕たち同族は、体の結びつきを欲するようにできている。でもね、勘違いしちゃうんだよ。相手の心まで欲していると」
「勘違い、したの?」

 ケントくんは頷く。その茶色の瞳が寂しげに細められる。

「バカンスでフランスに行ったときに出会ったサキュバスと、恋に落ちたんだ。彼女の体が欲しくて、心が欲しくて……でも、彼女は、サキュバスが抱かないはずの母性が強すぎた」

『僕は、愛する人が一番欲しがるものを、与えてあげられないんだ』
 ケントくんはそう悲しそうに言ったけれど、そうか、彼女は人間と同じような幸せを欲したのか。

 愛する人と家族になりたい。
 愛する人との子どもが欲しい。

 普通の女性なら簡単に手に入れられる幸せを、サキュバスは手に入れられない。

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