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サキュバスちゃんの純情《長編》
第7章 傷にキス
「僕は彼女とパートナーになれるなら、子どもなんていらなかったんだけど、彼女はどうしても納得してくれなくて。協会から『無理だ』と言われても納得しなくて……」
それ以降は、言われなくてもわかる。
彼女は心を病んだのだ。
愛する人との子どもが望めないことを知り、絶望に叩き落され、自分の体のことを嘆き、否定し――おそらく、死んだ。
自死か、餓死かはわからないけれど、たぶん、そうだ。ケントくんの表情がそう告げている。この世に彼女はいないのだと。
「あかりちゃんは『先生』と家族になれた?」
「……」
うなされていたときに、口走ってしまったか。
叡心先生とは夫婦にはなれたけど、子をなすことはできなかったし、先生もそれは望まなかった。二人で生きて行くだけでよかった。
けれど、それも叶わなかった。
水森貴一のせいか、先生の歳のせいか、それはわからない。私は水森貴一のせいにしたけれど、先生は年々衰えていく自分の体に怯えていた節も、ある。
晩年は「お前は綺麗だな」が先生の口癖だった。「それに比べて俺は」と嘆くこともあった。「自分が精液を出せなくなったら水森貴一に面倒を見てもらえ」と言われたこともある。
先生が「狂って」そう言ったのか、私に十分なご飯を与えられない焦燥感や劣等感があったのか、もう確かめようがないけれど。
「……夫婦にはなれたけど、夫は先に亡くなったよ」
「あとを追わなかったの?」
「ある人が、追わせてくれなかった」
叡心先生の死後、水森貴一は私を無理やり屋敷に閉じ込めて、毎日毎晩私を抱いた。私が叡心先生のあとを追わないように、私が生きていけるように。十分なご飯を与え、世話をしてくれた。
憎んでいたけど、許せなかったけど……優しい人でもあった。