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サキュバスちゃんの純情《長編》
第1章 情事と事情

まぁ、減るもんでもないから構わないけど、多少の羞恥心くらいは持ち合わせている。肩にかけていたバスタオルを慌てて腰に巻く。見られる恥ずかしさと格好悪い恥ずかしさなら、迷わず後者を選ぶ。
「け、健吾くん、帰って……」
「あー、俺の名前は聞いてるんだ。じゃあ、翔吾の彼女?」
「いえ、ただの友達です」
セックスするだけのお友達です。
「ふぅん、風呂まで借りるオトモダチ、ねえ」
ペットボトルの水をラッパ飲みして、冷たい視線を私に寄越す健吾くん。
怒っているのか、そう見えるだけなのか判断がつかない。でも、とにかく歓迎はされていない。言葉に棘がある。そんな気がする。
同じ顔のはずなのに、雰囲気が全く違う。翔吾くんはお日様みたいに明るく暖かな人だけど、健吾くんは夜みたいに冷たい感じ。
「翔吾がどんな女と付き合おうと俺には関係ないけど、あんまり深入りしないほうがいいよ。どうせ俺たちには自由なんてないんだし、翔吾もあんたと結婚なんてしないから」
「あ、大丈夫です。本当にただの友達なので」
健吾くんの眉がピクリと動いた、気がした。
自由に恋愛しても、結局は親の決めた人と結婚することになるだろう――翔吾くんの口癖だ。
だから、割り切った付き合いのほうが都合がいいと翔吾くんは言っていた。彼をセフレにしたのは、私にとっても彼の境遇が都合が良かったからだ。
「本当に大丈夫。私はお金も高価なプレゼントもいらないし、翔吾くんの未来にも興味はないから」
「……さぁ、どうだか」
健吾くんが何を疑っているのか、よくわからない。
翔吾くんから昔の女に利用されていたなんて話も、女から結婚をせがまれたなんて話も聞いたことがない。だとすると、翔吾くんのことではなく、健吾くんのことなのだろうか?
なるほど、女関係で手痛い経験をしたことがあるから、翔吾くんを心配していると考えると、確かに自然だ。
なんだ、優しい弟くんじゃないか。

