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サキュバスちゃんの純情《長編》
第1章 情事と事情

 少しほっとして、リビングのソファに座る。ふかふかで柔らかい手触りのソファ。たぶん、高価。寝転ぶとめちゃくちゃ気持ちがいいのだけど、さすがに健吾くんの前でそこまでは寛げない。

「あなたの大事な翔吾くんを傷つけたりはしないから、安心して」

 健吾くんの目が真ん丸になっているのをソファの背にもたれながら見て、笑う。ほんと、男の子はかわいい。表情が崩れると二人はそっくりだ。
 けれど、それも一瞬のことで、健吾くんはすぐに能面のような冷たい表情に戻る。

「なんか、そういう言い方は気に入らないな」
「あ、ごめんね。怒らせるつもりはなかったんだけど」

 双子だからお互いのことを大事にしているんだろうと思ったけど……違ったのかな。もしかしたら、なかなかに複雑な感情があるのかもしれない。私が踏み込んではいけないような、何かが。

「……あんた」
「月野あかり」
「……月野さん、あんた、どうせ翔吾のセフレなんだろ?」

 水を冷蔵庫にしまって、健吾くんはじぃっと私を見つめてくる。そして、ゆっくり近づいてくる。
 ……まずいな。本格的に怒らせちゃった?

「本当は金もらってんだろ?」
「もらっていないよ」
「社長婦人の椅子を狙ってんだろ?」
「興味ないよ」
「じゃあ、子どもか? 中出しさせて、妊娠したいんだろ?」
「私、卵巣がないから妊娠できないよ」

 卵巣がないのは嘘だけど、妊娠できないのは本当。いや、病院で調べたことがないから、私に生殖機能があるのかどうかさえわからない、というのが正解だ。

「顔が好みなのか?」
「顔も体も好きだけど、好み、ではないかな」
「体の相性か?」
「……」

 それは、まぁ、いいほうだと思う。翔吾くんは中折れしたこともないし、ちゃんと私の中で果ててくれるし。でも、それを健吾くんに伝えるわけにはいかない。困った。
 健吾くんが近づきながら無言になった私を睨んでくる。怖い、怖い、近い、ちか……っ!

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