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サキュバスちゃんの純情《長編》
第7章 傷にキス
ふわふわした感じの女性に席へ案内してもらう。簾で仕切られた、半個室のテーブル席だ。
彼女は「水森先生」と呼んでいた。患者さんか、知り合いなのかもしれない。水森さんがこの店の常連客なのかもしれない。まぁ、興味はないけど。
そして、ビールを頼んでいる間にメニューを見て、だし巻きは絶対に食べようと思う。美味しそうだ。
「水森さん、あの」
「最近、湯川に会っていないでしょう?」
「……湯川先生が忙しいからです」
新しいセフレたちにがっつかれていたわけではない。断じて違う。
彼らの若さゆえの回復力から、回数も量も多いので空腹になることはないけれど、断じて。本当に。
湯川先生との穏やかなセックスも好きなのだ。でも、旅行以降は先生の仕事が忙しくて会えない。今月末に一度会えるかどうかもわからない。
「捨てられたんじゃないかと心配していましたよ」
「別れるときはちゃんと言いますから」
自然消滅を狙うこともできるけれど、お世話になったのだから、最後はきちんと「さようなら」と言いたい。セックスだけの関係であったとしても、恋人同士のように。
「はぁい、水森先生、お待たせしました!」
中ジョッキが二つとお通しが運ばれてくる。山芋の明太子和え。美味しそうだ。
ついでにいくつか注文をする。だし巻きは頼んだ。というか、水森さんが頼んでくれた。好きなのかもしれない。
広くはない店内は、テーブル席とカウンター席がすべて客で埋まっている。水森さんが予約をしておいてくれて良かった。たぶん、流行っているのだろう。
ピリ辛の山芋がシャクシャクと口の中で音を立てる。瑞々しい。美味しい。ぺろりと食べてしまう。
「美味しい」
「でしょう?」
水森さんが目を細める。一瞬だけだけど、笑ったように見えた。水森さんも、こんなふうに笑うのか。