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サキュバスちゃんの純情《長編》
第7章 傷にキス

 ビールからチューハイに切り替えて、飲むスピードを落とす。
 皿を持ってきたり片付けたりしてくれる永田店長は、私への誤解が解けたのか愛想が良い。

「……悲しいですね」
「仕方のないことです」
「もしも、村上叡心のことを知りながら、それでもあなたのことを愛するという男性が現れたら?」

 カンパチの刺し身をもぐもぐ食べながら、思案する。
 叡心先生を愛したままでいい、二番目でもいい、ということ?
 そんな都合のいい男性は、いるだろうか。そんな私だけに都合のいい話を、受け入れる男性が?

 それは……セックスフレンドよりも険しい、茨の道ではないだろうか。
 そもそも、私はその人を愛せるのだろうか。

「……難しいのでは?」
「それは、そんな男性はいないという意味ですか? それとも、あなたの心情的に?」
「どちらもです。叡心先生を想いながら他の男性に心を許すのは、不器用な私にはできません。そんな私を好きになってくれる人も、いないと思います」

 でも、本当に?
 私がまだ出会っていないだけで、本当に叡心先生よりも愛せる人が現れたら、どうなるのだろう?

 私は、そのときも「無理だ」と諦めるのだろうか。それとも、その手を離したくなくて、縋って追いかけるのだろうか。
 ……わからない。

「あなたは周りが見えていないのですね」
「……?」
「鈍感だということですよ」

 うん、私、やっぱり水森さんは嫌いだ。
 私が睨んでも、彼は動じない。薄く笑みを浮かべているだけだ。
 苦手、なんかじゃない。そんな優しい感情じゃない。
 大っ嫌いだ。

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