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サキュバスちゃんの純情《長編》
第7章 傷にキス
「差し上げます」
水森さんが紙袋を出してきた。受け取って覗くと、厚い冊子が二冊入っている。
「村上叡心の絵をまとめた画集です」
「それは、ありがとうございます」
渡したいもの、とはこれのことだったのか。
ポストカードも嬉しかったけど、画集はもっと嬉しい。本当に嬉しい。
毎日眺めて思い出に浸ろう。楽しかった頃の思い出に。
「あかりさん」
「はい?」
「あなたは本当に残酷な人だ」
水森さんから言われるのは、何回目だ? 初対面のときに言われたから、二回は確実に言われている。
本当に、失礼な人だ。
腹が立つから、チューハイのグラスを睨む。水森さんの顔を見たくない。
「せっかく出会えた最高の相性のインキュバスを、村上叡心への想いだけで切り捨てたのは、浅はかだと思いますよ」
「……言われなくても、わかっています」
「言われてもわからないくせに?」
本当に、大嫌いだ、この人。
なんで、そんなふうに「あなたのことなら何でもわかっていますよ」という顔をするのか。不思議でしょうがない。不愉快でしょうがない。
あなたに、私の、何がわかるというの。
「セックスフレンドが、体だけの関係で本当に満足していると思っているなら、大きな勘違いですよ」
「……水森さんに、何がわかるんですか」
「湯川を見ていれば何となく想像はつきます。あなたの魅力は、その内面にあるのでしょう。残念ながら、当の本人は全く気づいていませんが」
……それは、褒められているのか、呆れられているのか、どっちだ?