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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

 北口に近いところ、屋根のあるコインパーキングに、車があった。ちょっと大きめの、L字のロゴの白い国産車。レンタカーなのだという。別荘にいる間はたいていレンタカーを借りているのだそうだ。

 トランクにキャリーバッグを詰め込んで、南口へ向かう間も、翔吾くんは私に触れようとしない。手も繋がないし、抱きついたりもしない。キスなんてもってのほか。一定の距離を保っている。
 ……どうしたんだろう、なんて考えてみても、思い当たるのは一つしかない。

 私が、健吾くんと、寝たから?

 山の日。
 ショッピングモールには、大勢の人がいる。家族連れもカップルも多い。
 手を、繋ぎたい。はぐれないように。安心できるように。
 でも、翔吾くんの空いた両手に、私の両手が絡まることはない。するりとかわされてしまう。

「どこに行く? 冷たいものがいいよね。カフェかなぁ。フードコートって気分でもないし」

 少し離れて歩く翔吾くんを見つめながら、言いようのない不安に駆られる。パンフレットの情報なんて頭に入ってこない。

 男の人が冷たくなるのは、女に飽きたときだろうか。別れの直前だろうか。
 私は、健吾くんを手に入れる代わりに、翔吾くんを失うのだろうか。
 この、軽井沢で。

「あかり? 何、食べたい?」

 優しい視線がぶつかる。翔吾くんはいつだって、優しい。いつだって、私を慈しんでくれた。
 でも、その優しさは、翔吾くんの本心だったのだろうか。本当は、遠慮していたのではないだろうか。他のセフレに、健吾くんに。
 私が、あの暴力的な性欲を催させるせいで、彼に無理をさせていたとしたら。
 私は、翔吾くんを開放してあげるべきなのかもしれない。

 ――彼が、それを望むなら。

「お店がたくさんあるから目移りしちゃって決められなくて。翔吾くんは何か食べたいものあった?」
「チョコレートの店の中に飲み物とアイスがあるみたいだよ」
「チョコレート!」
「じゃあ、行こうか」

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