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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

 広大な芝生に、青空。緑と水色のコントラストがよく映える。空気は東京ほどはじっとりしていない、気がする。爽やかだ。蝉の鳴き声はうるさいけれど。
 芝生には寝ている男性と走り回っている子どもたちが多い。あたりには犬を連れた人が多い。これも不思議な光景。公園に来ているかのように思えてしまう。

 ガラスのひし形が組み合わさった、ちょっと特徴的な外観の建物が目的地だ。
 チョコレートの量り売りや、アウトレット商品が並んでいる。けれど、目当ては冷たくて甘いもの。翔吾くんは飲み物を、私はソフトクリームを注文する。どちらも、チョコレート……ショコラがふんだんに使われているものだ。

「……濃い!」

 早く食べないと、冷たいものはすぐ溶けてしまう。歩きながら手元に視線を落とす。ビターなようで、甘いショコラのソフトクリーム。口へ運びながら、思わず笑顔になってしまう。さすが高級チョコ! 美味しい!

「一口ちょうだい」
「じゃあ、翔吾くんのも一口」

 ショコラドリンクとソフトクリームを交換して、「甘いね」「濃いね」と笑い合う。食べ歩きは行儀が悪いけど、ウインドウを覗いたり、パンフレットと見比べたりしながら、翔吾くんの近くを歩く。少しは涼しくなったかな。

 有名店のアウトレット店が所狭しと並んでいるのは、見ているだけで楽しい。買うつもりはあまりなくても、楽しい。
 ゴミ箱にゴミを捨てて、ふと目に入ったお店のTシャツが、翔吾くんに似合いそうだなぁと思う。あ、あっちのカーキのカットソーも。あれが水色なら、湯川先生に似合いそう。

 そんなことを考えて、セフレさんたちにそれぞれお土産を買うのもいいかもしれないなんて思う。私はいつももらってばかりだから。
 でも、翔吾くんとのデート中にそんな無粋なことはできない。だから、せめて彼に似合いそうな服なら。

「翔吾くん、Tシャツとカットソーならどっちが」

 振り向いた先に、目当ての人はいなかった。
 ……あれ、翔吾くん?
 見知ったはずの笑顔や背中がないと、急に不安になる。
 はぐれちゃった?
 あたりを見回しても、翔吾くんらしき姿はない。お店の裏の通りにも、その先にも。

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