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サキュバスちゃんの純情《長編》
第1章 情事と事情

「バカにしないで」

 健吾くんを睨んで見上げる。

「私にも選ぶ権利はあるの」
「じゃあ、俺を選べよ」
「選ばない」
「なんで?」

 震える指先、真っ青な唇、泳ぐ視線。精一杯の虚勢だとすぐにわかる。
 そこまでして、彼は何を守りたいのだろうか。私にはわからない。

「筆下ろしなら別の人に頼んで」
「なっ、ん」

 腕が緩んだ隙に体を捻って健吾くんから離れる。簡単に逃げることができたけど、真っ赤な顔をして私を睨んでくる健吾くん。「なぜそれを知っている?」と言いたそうな顔だ。

 私の性質上、男が精通を迎えているか、病気を持っているか、くらいはわかる。それがわからなければ、セックス――食事をする意味がないからだ。
 セックスをしたことがあるか――童貞か否か、は何となくわかる程度だけど、それほど外れたことはない。

「私は翔吾くんの友達で、プロじゃないの。勘違いしないで」

 ヤラせてください、お願いします、と土下座でもされたら考えるけど、高慢な童貞なんて一番面倒なものに手を出すつもりはない。
 健吾くんを睨み返したまま、間合いを取る。もう捕まるわけにはいかない。

「ただいまー! あかりー!」

 そんな一触即発の空気を壊してくれたのは、私のかわいいセフレくんだ。救いの神様だ。

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