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サキュバスちゃんの純情《長編》
第1章 情事と事情

「かわいいのがありすぎて悩んじゃったよ。あれ、健吾帰ってたんだ?」
「……ああ」
「あかり、おいで。部屋で着てみてよ」
「うん」

 バスタオルが落ちないように気をつけながら、翔吾くんのほうに近づく。私のおかしな格好を見ても、翔吾くんは笑わない。優しい人だ。

「翔吾、俺すぐ出ていくから」
「あ、そうなの? 夕飯は?」
「食べてくる。心置きなく仲良くヤレば?」
「じゃあ、心置きなく仲良くしようか、あかり」

 紙袋をたくさん持った翔吾くんに腰を優しく抱き寄せられ、健吾くんとの差に納得する。女の体を知っている男の動作は、やはり違う。すべてが優しくて柔軟だ。

「翔吾くん、買いすぎじゃない? 私、そんなにいらないよ」
「そんなに買ってないよ。母さんなんてもっと浪費するんだから」

 ぐいぐいと背後から肩を押されて翔吾くんの部屋のドアの前に連れて来られる。健吾くんの顔を見ることができたのは、翔吾くんに抗議するために一瞬振り向いたときだけだ。

「翔吾くん、そんなに押さないで……」

 翔吾くんの向こう側にいる健吾くんは、何だか切なそうな表情のまま、ぼんやり立っていた。その視線は、私と一瞬だけ絡んで、翔吾くんとドアによって遮られたのだった。
 その視線の本当の意味に私が気づくのは、少し先の話だ。

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