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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携
「じゃあ、今日と明日は、二人が私を癒やしてよ。順番に、ね」
「……それは、あかりさんを、一日独占できるということ?」
「そうだね、そんな感じで」
「夜も、あかりと一緒に寝てもいい?」
本当はセックスは辞退したいけど、癒やしてもらえたら、何とかできないことも、ない、かな?
「セックスできるかどうかはわからないよ」
「いいよ。一緒に寝られるなら。な、健吾?」
「異論なし」
ということで、桜井兄弟のじゃんけん大会の結果、今日は健吾くん、明日は翔吾くんとデートをすることが決まった。
健吾くんは早速ガイドブックを奪って目を通している。「最近、軽井沢には来ていなかったからなぁ」と真剣にぶつぶつ呟いているのを見ながら、私は食器を片付けて洗う。翔吾くんはテーブルを拭きながら、「この場所ならここを曲がって」と道を教えている。
仲のいい兄弟、だと思う。
その二人にサンドイッチにされながら、けれど、いつか来る別れを思う。
つらい、かもしれない。
叡心先生との別れほどではないけれど、それでも、寂しいかもしれない。
湯川先生にも、二人にも、感情移入しすぎてしまったかもしれない。「心は許さないようにしよう」なんて思いながら、こんなにしっかり、絆され、情が湧いている。
翔吾くんより前にも、他のセフレから彼女になって欲しいと言われたことはある。湯川先生より前に妻になって欲しいとも。
けれど、そういうときはいつも逃げていた。はぐらかして、連絡を控え、少しずつ距離を取り、名前を変えて住む場所を変えて、逃げていた。
明言してくれたら、切り離すだけだから楽なのに、最近みんな「本音」を隠して接してくる。「本音」を言わないから、どうすればいいのかわからなくて、結局居心地の良い腕に抱かれてしまっている。
それは、幸せなこと、なのか。
それとも、ただのモラトリアムに過ぎないのか。
確かめるすべは、ない。