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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携
「あかり、どうかした?」
目の前に翔吾くんの心配そうな顔。「なんでもないよ」と笑い、水を止めて手を拭く。健吾くんは行くところを決めたようで、ガイドブックを持って早くも車の鍵の場所を翔吾くんに聞いている。
「行ってくるね、翔吾くん」
「行ってらっしゃい、あかり。また明日、ね」
玄関を出るとき、翔吾くんが少しだけ私の頬に触れた。するりと手の甲が頬を滑り落ち、親指が唇に触れる。キスしたいのかな、と少し上を向いて待つけれど、唇は落ちてこない。
ただ、寂しげに微笑む翔吾くんに、「キスしないの?」と聞く。
「今日は健吾のものでしょ? だから」
「二人でシェアするんでしょ? 今日も明日も明後日も、これから先も、関係ないよ」
「でも、健吾が呼ん」
翔吾くんの首に抱きつき、無理やり唇を奪う。私を呼ぶ健吾くんの声は無視。遠慮がちに薄く開いた唇に舌を捩じ込んで、しばらくの間、コーヒー味のキスを楽しむ。
「あかりさん!」
「あと少し待って!」
健吾くんに声をかけ、翔吾くんの唇に触れ、笑う。
「我慢しなくていいよ、翔吾くん。健吾くんとのことに関しては、遠慮しなくていい」
「……あかり、明日」
「うん、明日、たくさん甘やかしてあげる」
再度触れるだけのキスをして、私は駐車してある車のほうへ向かう。翔吾くんに大きく手を振って車に乗り込むと、健吾くんが少し不機嫌そうな顔をしている。
ごめんね、健吾くん。
明日の別れ際には、ちゃんと君にキスをしてあげるから。機嫌直して、ね。