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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携
『健吾に抱かれたいと思う?』
あの言葉が翔吾くんの口から出てきたことが、やっぱりおかしいことだったんだ。
「翔吾は、今まで、色々諦めてきたんだ。いくらお金があっても買えないものはたくさんあるし、親の敷いたレールを歩かなければならないって、ずっと決めつけている」
「翔吾くん、そうしなければならないって思い込んでる?」
「たぶん。親の会社を継がなければならない、親の決めた人と結婚しなければならない、自分の人生には……自由がない、って」
自由。
呟いてみる。
自由。
「翔吾は、あのとき、あかりさんを諦めた」
「……うん」
「あかりさんと生きる道を諦めて、たぶん、俺に譲ろうとしている」
そう、だね。
翔吾くんは私を諦めている。私が彼を愛さないから。愛しても、愛されないから。
想う人から想われないのは、つらい。つらく、悲しいこと。
それを強いているのは、他ならぬ私だ。
「会社を継ぐのは、翔吾じゃなくて俺でもいいんだ。好きな人と結婚して、幸せに暮らす、そんな未来を夢見ても、いいんだ」
「健吾く」
「なんで、あいつは! 全部、諦めようとするんだよ!」
ザア、と風が吹き、葉擦れの音が街を包む。強い風に、葉が飛び、服が煽られ、髪が乱れ、悲鳴があちこちで聞こえる。
「なんで、俺に、あかりさんを譲るんだよ……あんなに、ボロボロになるまで、好きなのに……愛してるのに、なんで」
「何が、あったの?」
健吾くん、教えて。何が、あったの?