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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携
お昼ご飯を街の中にあったフレンチで食べたあと、健吾くんは車を走らせる。どこへ向かっているのかはわからない。
スピーカーからは、軽快なポップス。ラジオ番組で使用されているのは、新しい曲なのだろう。健吾くんは時折歌詞を口ずさむ。
「……覚えてるもんだな」
車が停まった先に見えたのは、河原の近くのキャンプ場。いくつかテントが張ってあり、バーベキューの準備をしている家族が見える。
車から降りて、小石の道を行く。足元は少し不安定。川の流れは穏やかで、子どもたちが水着を着て遊んでいる。
あぁ、この風景……見たことある。
「もう、溺れないでね。今日は水着着ていないから」
健吾くんは、立ち止まって、苦笑する。
「大丈夫だよ。もう、溺れたりしない」
ここは、健吾くんと私が出会った場所。
彼が溺れて、私が助けた場所だ。
「あのときは、川が前日の雨で増水していて、気をつけるように言われていたんだけど、足を滑らせてしまって」
サンダルを脱ぎ、岩に腰を下ろして、川に足を浸す。ひやりと冷たい水。気持ちいい。
川の水は澄んでいる。サラサラとゆっくりと流れていく。日差しの照り返しが強いけど、涼しい風が吹いているせいか、暑すぎることはない。
「パニックになると、ダメだな。俺、泳ぐのは得意だったんだけど」
「そう、だったんだ」
「あのときは、みんなパニックで、親もレスキューを呼ぶか救急車を呼ぶかで慌てていたし、流れが速くて大人が泳いでも追いつけなくて……川下にあかりがいてくれて、良かった」
そうだね。私が水着を着ていて、泳ぐのが得意で、良かった。