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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携
「ありがとう」
優しげな視線がぶつかる。穏やかな目だ。
「俺を助けてくれて、ありがとう」
「……どういたしまして」
健吾くんから感謝されるのは、不思議な感じ。随分と昔の話で感謝されるのは、本当に、不思議。
「でも、もう、大丈夫だから」
「うん」
「これから先、あかりさんの助けはいらないから」
「……うん」
健吾くんなら、きっと大丈夫だろう。私がいなくなっても、強く生きていける。
「あのとき、やっぱり、殴られていたよね?」
「……まぁ、そういうプレイが好きだった人だから」
「痛かった?」
「痛かった。でも、逃げ出したよ。ちゃんと」
健吾くんの指が私の頬に触れる。熱く、乾いた指だ。
私が藍川に殴られていたことを、彼は覚えている。酷い男、の記憶。
「あのとき、あかりさんを助けられなくてごめん。俺だけ助けてもらって……ずっと負い目を感じてた」
「健吾くんはまだ十歳だったんだから、仕方ないよ。それに、健吾くんは酷いことはしないでしょ」
「……ん。女を殴るような、のは、できない」
健吾くんの中に藍川のような狂気じみた欲望はない。加減を知らないから乱暴になってしまうけれど、暴力的な部分はない。
それが普通で、それが正常。
藍川が異常だっただけだ。