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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

「あかりさん」
「はい」

 君の中の狂気に怯えなくていい。大丈夫。健吾くんは、藍川みたいにはならない。

「ありがとう」

 それが、十年前の感謝の言葉ではないことくらい、わかる。

「俺は、あかりさんのことが好きだけど、やっぱり、翔吾も大事だ」
「わかってる」
「だから、翔吾と別れるなら……俺とも別れて」

 わかっている。
 その覚悟も。その大きさも。

「翔吾が嫌だって言うなら、俺はセフレから外れてもいいから」
「……うん」
「二人で、決めて。俺は大丈夫だから。気にしないで」

 川は流れる。
 ひと所に留まることはない。
 時代と同じ。

 健吾くんはもう溺れない。
 川にも、私にも。

「最後に、一回だけ」

 風が雑草を揺らし、子どもたちの声をかき消す。
 優しく柔らかなキスは、触れるだけのもの。
 それが最後になるのか、それとも続くのか、明日が来ないとわからない。

「あかり、ありがと」

 健吾くんの微笑みは、翔吾くんにそっくりで、でも、違う。二人は違う人。私への想いの大きさも、愛情の種類すらも、きっと違う。

 ごめんね、健吾くん。
 ありがとう。

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