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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携
夕方、別荘に帰ったとき、既に翔吾くんの姿はなかった。代わりに置き手紙があり、「今夜はホテルに泊まる」とだけ書いてあった。
「帰ってくるよね?」
「心配しなくても帰ってくるよ。はい、これ、翔吾の香水」
健吾くんが手渡してくれた水色の香水瓶は、使いかけのもの。どうやら、ホテルに持っていくのを忘れたらしい。
「これ、どうすれば?」
「隠しておいて。翔吾の本音を聞きたいんだろ?」
「……でも」
「あかりさんが必要ないと判断したら、翔吾に返せばいいよ」
ねぇ、健吾くん……なんで、キャリーバッグ、持って降りてきたの?
「あ、冷蔵庫の中のものは何でも使って。翔吾が好きなもの、作ってやってよ」
「健吾く」
「俺、今から、母方の実家に行ってくるから」
キャリーバッグを持っていくのだ。そんなに近いわけではないのだろう。
だとすると、健吾くんは、もう――。
「……帰ってこないの?」
「うん。元からそのつもりだったし」
「健吾くん」
「会えて良かったよ、あかりさん。あんたに会えて、良かった」
なんで、泣きそうなの。
なんで、そんな顔で、笑うの。
なんで、最後だと、思うの。