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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

 結局、夕飯は自分で作って、一人で食べた。お風呂も一人で入った。
 こんな広い別荘に一人残されるのは不安だったし、寂しかった。

 翔吾くんに連絡しようとして、何度メッセージアプリを起動したか。でも、メッセージを送ることはできなかった。

 なんて、言えばいいんだろう。
 健吾くんが別荘を出ていったから帰ってきて? 何で出ていったのか聞かれたら、どう答えればいいのか、私にはわからない。

 わからない。
 何もかも。

 施錠と消灯を確認したあと客室に戻り、財布から一枚の紙を取り出して、番号をタップする。
 そして、震える指で通話ボタンを、押した。

 プルルルルという無機質なコール音。六コール目で、相手が電話口に出る。

『……もしもし?』

 不機嫌なのか、訝しげなのか、私にはわからない。知らない番号から、休日の夜に電話がかかってきたのだから、仕方のない反応だ。

「月野です。夜分遅くにすみません。どうしても、伺いたいことがありまして」

 電話の向こうの相手は、一瞬だけ息を飲んで、その後ハァと溜め息を吐き出した。

『……場所を移動します。すぐこちらからかけ直しますのでしばらくの間待ってくれますか?』
「あ、はい。大丈夫です」
『では、後ほど』

 後ろで『康太さん、仕事の電話なら遠慮してちょうだい』と年配の女性の声がした。千恵子さんだろうか。実家に帰っていたようだ。家族団らん中なら、迷惑ではなかっただろうか。
 けれども、言葉通り、すぐにコール音が鳴る。深呼吸をして、通話ボタンをスワイプさせる。

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