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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録
◆◇◆◇◆
往診の帰り、土堂の画廊でいい絵に出会う。村上叡心という画家の絵だ。客待ちをしている街娼を描いているのは気に食わないが、美しい絵だと、美しい女だと、思った。
画商の言い値で買ってしまったが、不満はない。自室に飾ろうと思う。
また画廊で村上叡心の絵を見つけた。また街娼の絵。久保にいる街娼なのだろうか。構図は似ているが、前回はぼんやりとしていた顔の輪郭や顔立ちがはっきりとわかる。美しい女だ。
絵を見ていると不思議と穏やかな気持ちになる。この画家と女を知りたいと思う。
村上叡心の絵が届けられたら連絡するよう伝えて、絵を買う。
往診の帰り、土堂の大和湯で女を見かけた。あの絵の街娼だ。そっくりだった。
女は銭湯から出てきたところだった。後れ毛を気にすることもない様子に、近くに住んでいるのがわかる。
立ち止まって様子を見ていたら、大和湯から出てきた男と連れ立って歩き出した。客だろうか。少し後ろを歩いていたら、二人は東土堂のほうへと向かって行った。
画商から連絡をもらい画廊へ行くと、男がいた。先日の街娼の客だと思ったが、その男は村上叡心と名乗った。用件は、絵を買ってくれたことへの感謝をしたいとのことだった。
話をしている中で、叡心は街娼が自分の妻であることを告げた。客ではなかった。画家は街娼を娶ったのだ。
しかし、叡心の妻の絵は、何とも色と艶のある絵になっている。素晴らしい。今日持ってきた絵は、情事のあとの妻の絵だという。目つきが以前のものと全く違う。男を誘う目に、優しさが加わっている。男と女が、夫と妻になった変化に、私の心が揺らぐ。
絵の中の美しい女が、欲しい。
触れてみたくて仕方がない。
この女を、我が妻にしたい。
そう、強く願う。邪な願いだ。
私は、一体どうしてしまったのだ。