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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録
夢を見た。
街娼の女が、見知らぬ男の腕の中で笑っていた。媚びるような笑み。誘うような笑み。私の嫌いな笑み。
叡心の妻となったその女が、叡心に組み敷かれて喘いでいた。白い肌に赤い痕をいくつも残して、笑う。それはそれは、幸せそうに。
その笑顔が、欲しいと思う。
その笑顔を、叡心ではなく、私に向けて欲しいと。
私の腕の中で、笑って欲しいと。
叶わぬ夢を、見た。
毎日、自室にある絵を眺めている。夜になったら、何をすることもなく、ぼんやりと眺めている。
叡心の妻が欲しい。
あの画家は、どのように言えば自分の妻を差し出すだろうか。
どのようにして、女を籠絡してやろうか。
毎日、そんなことばかり考える。
そうして、何年経っただろうか。行動することはなく、考えるだけで終わってしまった。
いや、それでいいのだ。考えるだけでいいのだ。
診療所に来た街娼から、女の話を聞き出す。
女は、久保にある神社で気を失って倒れていたらしい。名前も出自もわからない、記憶を失っていた女を見つけて、ミチと名をつけ街娼に仕立て上げたのがアサだそうだ。
見つけたときに私の診療所に運び込んでくれていたら、ミチさんは私の妻になっていたかもしれないのに、余計なことをと思わずにいられない。