この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録
怖い、と思った。
最初に私の街娼時の絵を見て、叡心先生のパトロンになって、何年も何年もかけて、水森貴一は歪んで、狂っていった。それがつぶさに記録してある。
愛と言うよりは、怨念のような、執念のようなものを感じる。
これを深い愛情だと言うのは、違う。
これは、狂った、愛だ。
そう、水森貴一は、狂っている。
狂っていた。
狂わせたのは、私。
彼の濁った想いを、澱のように蓄積させていったのは、私。
どうして、もっと早く、気づかなかったのだろう。
どうして、逃げ出さなかったのだろう。
町を捨てて、故郷を捨てて、狂った男から逃げ出せば、あんな悲劇は起こらなかったのに。
どうして。
……わかっている。
叡心先生が深い愛情を注ぐ故郷を、離れられるわけがないこと。離れられるわけがなかったこと。
あんな思いをしてもなお、彼は故郷の人々を愛し続けた。その中には、水森貴一も含まれたのだ。