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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録
溜め息をつきながら、貴録に目を落とす。
私の嫌な記憶と感情まで呼び起こされてしまう恐ろしい記録だ。
けれど、まぁ、水森貴一が何を考えていたのか、わかるのはありがたい。
縁側の裸婦像が箱根の美術館に収蔵された経緯も何となくわかったし、私を拾ってくれたアサさんのことも思い出した。
水森貴一が私にプレゼントばかりしてくるようになった理由もわかった。あのときは、ありがたいような、迷惑なような、そんな気持ちだったけれど。
ゆっくり、時間は過ぎていたらしい。既に夕方だ。電気をつけて、再度水森貴一の日記に向かう。
この先は、たぶん、しんどいことばかり書いてあるだろうけれど、我慢して、読み進めよう。
我慢できなくなったら、また、放り投げればいいだけなのだから。
◆◇◆◇◆
絵を持ってきた叡心に、話をした。妻を差し出すようにと。今こそ、私への恩義に報いるようにと。
叡心は、その場では首を縦には振らなかった。迷っていたのだろう。ただ、妻に話をする時間が欲しいと言って帰っていった。
了承したなら、三日後、ミチさん一人で私の家に来るようにと念を押しておいた。
三日後。楽しみだ。
明日のために、白無垢を準備した。色打掛のほうが好みかもしれないと、赤いものも準備してある。
あぁ、明日。
明日、私の腕の中に、ミチさんを閉じ込めよう。