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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録
またミチさんを呼ぶ。
上等な友禅を着させても、美味な茶菓子を食べさせても、好物の桃を食べさせても、笑顔が見られることはない。
苦しい。
恋い焦がれた女を抱いて、孕ませようとしているのに、女は私を見てはくれない。夫に向けるような穏やかで優しい笑顔を、私には見せてくれない。
なんて、苦しい。
苦しくて、苦しくて、夜通しミチさんを抱いて、潰してしまった。
気をやって眠ってしまったミチさんを抱きしめて、涙を流した。
私は、どこで、何を間違えてしまったのか。
愛しい人に、想いが届かない。
私は、どうすればいいのか。
どうすれば。
今夜は叡心の家に行った。粗末な家に、油絵具の臭いが染み付いている。家を汚しても構わないと伝えて住まわせた通り、絵具があちこちについている。
この家で、叡心とミチさんが暮らしている。この、幸せな家があるから、ミチさんが私のものにならないのだ。
床に入る寸前の二人を見つけ、怯えるミチさんを押さえつけて、叡心に、描け、と命じた。嫌だ嫌だと泣き叫ぶミチさんの中に無理やり押し入り、描け、と叡心に命じた。
叡心は絵筆を取り、泣きながら描き始めた。泣き喚く妻を、蹂躙する私を。獣のようにまぐわう二人を。
精を出しても、充足感などない。苦しいだけだった。
それでも、ミチさんの泣き顔を見られたことは収穫だった。能面のような顔が涙に歪むのは、嬉しいことだった。
幸せな家の記憶に、私の記憶を刻み込んでやったのだ。