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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録
今夜も叡心の家に行く。そして、また、泣き喚くミチさんを抱き、叡心にその絵を描かせる。
早く絵を完成させないと、妻が汚される一方だということに、叡心は気づいているのか。いないのか。
ミチさんに子ができた気配はない。まだ孕まないのか。まだ足りないのか。ならば、もっと、抱かなくては。
叡心の絵が変わった。
美しく描かれたミチさんの体に、絵具をさらに塗りつけているのは、私への抗議だろう。妻を蹂躙されて喜ぶ夫はいない。ミチさんを抱く私への憎悪、なのかもしれない。
どちらでも構わない。
それでも、叡心の絵の中のミチさんは変わらず美しいのだから。
叡心が絵を持ってきた。
横たわるミチさんと、繋がれた手。しっかりと握られた手が、絆の強さを象徴している。
叡心が自分の体の一部を絵に描き込むのは珍しい。自らの肖像画でさえ描かなかった男だったのに。
理由を尋ねたら、叡心は言った。
もし自分に何かあったら、ミチのことを頼む、と。ミチは男に抱かれていなければ生きていけない。だから、あんたがその役目を引き継いでくれ、と。
どういう意味か、今でもわからない。
縁起でもない、と私は叡心を怒鳴りつけた。私はミチさんを慕っているが、叡心の絵も高く評価しているのだ、と。
筆を折らないでくれ。
叡心の絵は、ミチさんは、私のすべてなのだ。