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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録

 子ができない。ミチさんに尋ねたら、できない体だと言う。娼妓には多いとは聞いていたが、ミチさんもそうだったのか。
 しかし、子ができないのなら、養子をもらうのでも構わない。
 私の妻になってくれと何度言っただろうか。ミチさんは頷かない。
 守らせて欲しい、そばにいて欲しいと何度も言った。けれども、ミチさんは頷かない。
 私は、どうすればいい。
 夫を亡くした女を手に入れたが、女は決して心を開かない。私は狂おしいほどに慕っているというのに、その目が私を映すことはない。
 苦しい。
 つらい。
 狂ってしまいたい。
 こんなことなら、いっそ、二人で死んでしまいたい。
 あぁ、そうだ、それがいい。
 二人で、死んでしまおうか。


 ミチさんを抱いたあと、その細い首に手をかける。少し絞めるだけで、簡単に折れてしまいそうな白い首。
 ミチさんは私を見上げて、笑った。
 笑ったのだ。
 初めて。
 私の目を見て。
 殺して、と唇が動いた。逝かせて、と。
 できるわけがない。
 私はミチさんを慕っている。
 そばにいて欲しいだけなのに、なぜ、慕って欲しいと願う。
 なぜ、見返りを求めたがる。
 私は卑しい男だ。なんて愚かなんだ。
 泣きながら、すまないと詫びる。すまない。許してくれとは言わない。すまない。すまない。


 終わりにしよう。
 ミチさんを苦しめたくはない。
 今までの街娼としての報酬と、心付けを渡して、ミチさんを解放しよう。

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