この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録
給金だと言って、少なくはない金を渡す。どこかの町へ行き、しばらくは暮らしていけるだけの路銀になるだろう。着物なども用意しておいた。
ミチさんは私を見上げ、驚いていた。呆けたように口を開けた姿を初めて見たが、滑稽だった。
慰み者にしたかったわけじゃない。
絵と同じように、私を癒やして欲しかっただけなのだ。笑いかけて欲しかっただけなのだ。
そして、絵と違い、私を、慕って欲しかった。
それは叶わない。
私が叡心を殺したようなものだ。
その上、ミチさんを殺すわけにはいかない。
ミチさんの生きる場所は、ここではない。私のそばではない。
ミチさんが出て行った。
昨夜、最後に抱いたとき、ミチさんは泣いていた。嬉しかったのか、寂しかったのか、私にはわからない。
けれども、ミチさんは水森の家を出て行った。
何度、追いかけて、縋って、泣いて、私のそばにいて欲しいと叫ぼうと思ったか。
小さくなっていく後ろ姿を見ながら、私は泣いた。ミチさんは一度も振り返らなかった。
私は、また一人、焦がれた人を失ったのだ。
◆◇◆◇◆