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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録

 給金だと言って、少なくはない金を渡す。どこかの町へ行き、しばらくは暮らしていけるだけの路銀になるだろう。着物なども用意しておいた。
 ミチさんは私を見上げ、驚いていた。呆けたように口を開けた姿を初めて見たが、滑稽だった。
 慰み者にしたかったわけじゃない。
 絵と同じように、私を癒やして欲しかっただけなのだ。笑いかけて欲しかっただけなのだ。
 そして、絵と違い、私を、慕って欲しかった。
 それは叶わない。
 私が叡心を殺したようなものだ。
 その上、ミチさんを殺すわけにはいかない。
 ミチさんの生きる場所は、ここではない。私のそばではない。


 ミチさんが出て行った。
 昨夜、最後に抱いたとき、ミチさんは泣いていた。嬉しかったのか、寂しかったのか、私にはわからない。
 けれども、ミチさんは水森の家を出て行った。
 何度、追いかけて、縋って、泣いて、私のそばにいて欲しいと叫ぼうと思ったか。
 小さくなっていく後ろ姿を見ながら、私は泣いた。ミチさんは一度も振り返らなかった。
 私は、また一人、焦がれた人を失ったのだ。


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