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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録
溢れてくる、後悔の念。
叡心先生への、贖罪の意識。
私への、恋慕と執着。
水森貴一は、叡心先生の遺言を守ろうとした。私はそれを受け入れなかった。
その決断は、正しかったのだと、今でも思う。間違いではなかった、と。
けれど、彼を受け入れていたら、違った結末があったのかもしれない、とも思う。
翔吾くんのように、違う未来が。
画集の最後に収録されている絵を、もう一度見る。
畳の上、微笑みながら横たわる私の右手を、叡心先生の左手が握る。
右手で絵筆を持ち、たまに手を離しながら、器用に描いていたと記憶している。
これが、遺作だったのか。
離さない。どんなにつらい思いをしても、妻だけは離さない――叡心先生の想いが伝わってくる。
でも、先生は、私を遺して逝ってしまった。しかも、水森貴一に絵と私を託して。
明らかに矛盾する叡心先生の気持ちを、私はどう解釈すればいいのか。
先生に会いたい。
叡心先生に、答えを聞きたい。
あのとき、私は、どうすれば良かったのですか、と。