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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録

 その後、水森貴一は見合い結婚をし、三人の子どもに恵まれたようだ。秀通(ひでみち)、貴通(たかみち)、美智子。どれだけ「ミチ」に飢えていたのか。狂気すら感じる。
 そんなことをしていたら、いつまでたってもミチを忘れられないというのに。

 貴録には子どもたちの成長に目を細める父親としての視線が増えてくる。時折、寂しい、という言葉が出てくる以外は普通の日記だ。
 私のことが出てくるのは、何年か経ってからだ。


◆◇◆◇◆


 街娼をしていたアサに会った。梅毒で鼻が窪んだアサの体は衰弱し、もう長くないだろう。気休めにしかならない薬を調合し、世話人に渡して帰る。
 アサに会って、ミチさんを思い出す。
 あれから何年経っただろうか。アサもミチさんの行方を知らないと言う。どこかで誰かと幸せになっていてくれたら良いのだが。


 久方ぶりにミチさんの絵を眺める。相変わらず美しい。叡心は本当に良い画家だった。
 あぁ、ミチさん。
 あの白く滑らかな肌にまた吸い付くことができたら。柔らかい肌を抱きしめることができたら。
 忘れようとしても忘れられない。
 絵を眺めるたび、恋しい気持ちが込み上げてくる。
 手放すのではなかったと、いつも後悔している。
 そばにいて欲しい。いて欲しかった。

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