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サキュバスちゃんの純情《長編》
第9章 記憶と記録

最近よく叡心の絵を見つめている。絵を通して、ミチさんを想う。
今、どこにいるのか。
寂しくはないか。
幸せでやっているか。
苦しいほどに恋しい。いや、恋しい故に苦しいのかもしれない。
秀(ひで)は家のことも子どもたちのことも、しっかりやってくれている。良い妻であり、良い母である。
文句のつけようなどないはずなのに、どうしても、比べてしまう。
坪内逍遥の言う「色」がミチさんなら、「愛」は秀のような女のことだろう。
ミチさんを抱きたい。そう思ったままの私は、色に溺れ、愛を疎かにしているのだろうか。
妻よりも、どこにいるともわからぬ女を想うのは、やはり私が狂っているからなのだろう。
それでもいい。ミチさんに会いたい。
一度想ってしまったら、歯止めが効かない。
毎日毎晩、ミチさんを想って涙を流す。
会いたい。
笑って欲しい。
私を慕って欲しい。
あぁ、どうか、私の妻に。
秀が心配している。昼、何かあったのかと尋ねてきた。寝言でミチさんを呼んだらしく、ミチとは誰かと問われた。以前世話をした人だと答えておいたが、口の軽い使用人からミチさんのことが明らかにならないとも限らない。
困ったことになった。

