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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
他人事だと思って、と佐々木先輩が睨んでくる。他人事ですから、と私は笑う。
でも、話を聞く限りでは幸せにしてくれそうな人ではある。一人娘が婿を連れて戻ってくればご両親も嬉しいだろうし、佐々木先輩の事務能力があれば即戦力にはなるだろうし。
「でも、彼氏さん、製造業の方なんですか?」
「まさか。営業とか企画とか、そういうのしかやったことがないはずよ。だから、仕事を辞めて、結婚の前にうちに転職して現場に馴染んでおきたいって……ほんと、どうしろと……」
どう、って。
今の気弱な佐々木先輩には、助言というよりは背中を押す言葉が有効な気がする。たぶん、先輩もそれを望んでいる気がする。
答えはすぐ目の前にある。素直にそれにしがみつけばいいだけ。
……水森さんも、そんな気持ちだったのだろうか。ウジウジ悩む私に対して、呆れていただろう、なぁ。
「結婚したらいいんじゃないですか?」
「でもね、月野さん」
「息子さんは懐いている、会社を継ぐ気でいる、向こうの両親も納得してくれている……何の問題もないじゃないですか。あとは、先輩の気持ち一つだと思いますよ?」
「けど」
「強いて問題をあげるなら、先輩の職がなくなることくらいですけど、実家を継ぐなら問題ないですよね。ご両親がそばにいる環境なら息子さんを育てやすいし、先輩も息子さんとの時間も作りやすいんじゃないですか?」
子どもを一人で育てるよりは、ずっと楽ができるはずだ。私は子どもを育てたことはないけれど、見守る人は、一人より二人、二人より四人のほうがずっといい。
「息子さんのためにも、新しいお父さんができるのはいいことだと思いますよ」
秘技「子どものため」は、シングルマザーには効果てきめんだ。佐々木先輩は「うぅん」と唸って、箸を噛んだ。