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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
「あの、お話って?」
電車内や移動中は無難に仕事の話しかしなかった。店に着いてから話すのかなと思って、乾杯をしたあとに切り出す。そうしないと、舞い上がって話を聞くどころではなくなってしまいそうだったから。
荒木さんは少し思案したあと、話し始める。
「父方の実家が、金沢にあるんだ。そこで、面白いものを見つけて、ね」
「面白いもの、ですか?」
「そう。これなんだけどね」
スマートフォンを操作して、荒木さんが私に一枚の古い写真を見せてくれる。青い花柄のワンピースを着た、顔の見えない女性が、何かの写真をこちらに向けている。
その写真の中の人物に、見覚えがある。
花壇のそばにしゃがんで、仲睦まじそうに話をしているかのような男女。男性の名前は、沖野旭。女性は、私、だ。
「俺、前に『月野さんにどこかで会ったことがある気がする』って言ったでしょ? 昔、この写真を見たことがあったんだなぁって、思い出したんだ」
「……なるほど。よく似ていますね、私に」
精一杯、笑顔を作る。まぁ、さすがに「同一人物だよね?」とは聞かれないだろう。
「写真の男性は若いときの俺の曽祖父で、女の人は使用人だったらしいんだけど、月野さんに本当によく似ているよね」
……旭さんが、曽祖父?
あれ? 翔吾くんのお母様が孫で、翔吾くんが曾孫、だったよね?
写真に写る青い花柄のワンピースに見覚えがある。これは、初めて会ったとき、お母様が着ていたもの、では?
『あ、でも、ユウちゃんも似ている人が会社にいるって言っていたから、失礼だけど、よくある顔なのかもしれないわね』
『問い詰めたら、翔吾の彼女だって白状したのよ』
お母様の言葉が思い出される。
荒木さんの下の名前は、雄一。ユウ、ちゃん?
そして、その場で「月野あかりが翔吾の彼女である」と、健吾くんがお母に白状したんだよね?
……え?
ちょっと、待って。
まさか。まさかとは、思うけど。