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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白

 魚介類がたくさん入ったクリームスパゲティも、ベーコンやサラミがたくさん乗っかったピザも、野菜たっぷりのミネストローネも、きっと美味しいのだろうけれど、味がしない。

 告白する前にフラれてしまった。
 これは、フラれたと考えるべきだろう。
 考えるべきだ。
 消沈した気持ちが浮上することはない。

「月野さんて、不思議だよね」
「……?」
「あ、いや、不思議って言うか、隙がありすぎるって言うか」

 荒木さんはピザを食べた指をおしぼりで拭きながら、笑顔で私を見つめる。

 その笑顔。叡心先生に似ているんだと思ってドキドキして好きになってしまったけど、旭さんもそうだったんだ、と思い出す。困ったような笑顔は、旭さんも同じだった。だから、私は旭さんの世話をするのが苦ではなかったのだ。
 そりゃ、曾孫だもん、旭さんと荒木さんが多少似ていたって不思議ではない。翔吾くんや健吾くんは似なかっただけなのだ。

「……隙がありすぎ、ますか?」
「うん。誤解を与えやすい、とでも言うのかな。飲み会で酔い潰れちゃうし、花火大会のときにしても、彼氏がいるのに言い寄られていたし、俺も昨日まで月野さんに彼氏がいないと勘違いしていたし」

 一昨日まで、彼氏はいなかったんです。あと、妹尾さんは彼氏がいようがいまいが関係なく、不倫を迫ってきた最低野郎なんです。

 誤解を与えやすいように隙を作っているのは、精液確保のためなのか、私の本来の性格なのか、もはやわからなくなってきた。
 意図的に隙を作るのは簡単で、それをずっと今まで活用してきた。隙があったほうが、男の人は食いつきやすい。つまりは、セックスに持ち込みやすい。私にとっては必要な戦術だ。
 けれど、それが身に沁みているからこそ、故意なのか過失なのか、人工なのか天然なのか、私にもわからなくなってきている。

 荒木さんにそう見られていたということは、きっと意図せずに隙を作り出していたということだ。気をつけなければ、今後もそういう女だと思われてしまいそうだ。荒木さん以外の人からも、危なっかしい女だなぁ、と呆れられるに違いない。

「俺も誤解していたんだよね、きっと」
「……え?」
「月野さんは俺に気があるのかな、なんて」

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