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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白
世界が止まった。と思った。
クラシックBGMも聞こえない。周りの人の声も聞こえない。ただ、困ったような笑みを浮かべる荒木さんだけが、私の目の中に、いる。
あの、荒木さん、あの、今、なんて?
「手を、取ってくれたでしょ? 花火大会のとき」
「あ、はい、はぐれないように、と」
「あれは、賭けだったんだよね。月野さんが、俺にどんな気持ちを抱いているか、知りたかった」
手を繋ぐという行為がどういう意味か、私は十分知っている。
翔吾くんと手を繋げなくて心細かったのは、私が彼に好意を抱いていたからに他ならないわけで。
荒木さんと手を繋ぐという意味を、私は「それだけは絶対にない」と思い込もうとしていた。荒木さんが、私に好意を抱いているかも、だなんて、絶対にありえないと。
「あぁ、嫌われてはいないんだなと思って、安心したんだ。あのとき」
荒木さんは自分の左手を見て、笑う。私と繋いだ手は、彼の左手だった。
「でも、実際は月野さんは翔吾の彼女だもんね。俺、月野さんに好かれているかもと思い込んでいたから、違って、本当に恥ずかしい」
「……」
「それから、すごくショックだった」
その言葉の意味に気づかないほど、荒木さんの表情の理由に気づかないほど、私は鈍感じゃない。
荒木さんは、私のこと……。
私がフラれたんじゃなくて、私が彼を――。
「……荒木さんは、私の初恋の人に似ているんです」
「うん、そうだよね。それだけ、だよね」
「……はい」
だから、荒木さんを好きになりました。
でも、ずっとわかっていました。この恋が報われることはないと。絶対に、ないと。
それで、いいんだと。
それで、いいんです。
荒木さんはデザートを頼んでいる。メニューの中から二つ選べるらしい。私はイチゴのタルトとアップルパイを選び、メニューを閉じる。