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サキュバスちゃんの純情《長編》
第10章 黒白な告白

「私、荒木さんのことは尊敬しています。私が手がけた資料だと必ず契約取ってきてくれるので、本当に嬉しいです」
「好きな人には格好いいところ見せたくてね」
「甘いものの情報教えてくれるのも嬉しくて」
「うん、好きな人と好きなものが同じだと嬉しいよね」

 荒木さんは私を見つめている。じぃっと、私だけを見つめている。微笑みながら、動揺している私の様子を観察している。
 彼が「好きな人」を連呼する意味はわかっている。「引くつもりはない」という意思表示だ。

 このときをどれほど待ち焦がれたことか。どれほど望んだことか。
 なのに。
 嬉しいはずなのに、ちっとも嬉しくない。ドキドキはしているけど、冷や汗のほうがずっと多い。

 荒木さん、これ以上は、お願いだから、やめてください。
 あなたは、サキュバスの甘い匂いに騙されているだけなんです。私の体が美味しそうだと勘違いをしているだけなんです。
 だって、あなたは、本当に甘いものが好きだから。だから、勘違いを。

「翔吾より先に出会えていたら良かったのに」

 ……爆弾を、落とさないでください。
 私は、荒木さんの好意を受け入れちゃダメなんです。
 本当は受け入れたいけど。ベッドの上で押し倒されたいけど。精液を搾り取りたいけど。貪って欲しいけど。抱き合いながら、「ミチ」と呼んで欲しいけど。

 それだけは、それだけは、ダメなんです。

「月野あかりさん」

 置かれたプレートの上の、かわいらしいデザートの、味さえきっとわからないに違いない。甘いのか、苦いのか、酸っぱいのか、美味しいのか、不味いのか。

「翔吾と別れて俺と付き合ってくれる?」

 誰が、淡白荒木、なんてあだ名をつけたの? 彼は立派な肉食獣だ。淡白どころか、自分のはとこの恋人を奪おうとするような、積極的な人だ。
 草食獣の毛皮をかぶった肉食獣のこと、なんて言うんだったっけ? アレだ、アレ。

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